2015年7月17日

統計祭り(前編)~動画を利用して学習中~


論文を読んだり、訳したりするのに避けて通れない道、それが統計道・・・。分からないことが出てくると、該当部分をネットで検索したり、参考書をつまみ読みしたりしてしのいできたんですが、ここに来て「統計の感覚が染みつくぐらい理解してないとダメ」というアドバイスをいただき、本気でやるか・・・と何度目かの決意に至りました。←えぇ、毎回途中で挫折しております。

ふふふ、今回は挫折せずに楽しんで勉強できていますよ!ということで、統計祭り(前編)としてまとめたいと思います。

★教材

自宅にある統計関連の本を積み上げると、けっこうな量になります。図書館で借りただけのものも含めれば相当な高さになる・・・と思うのですが、そのときはわかった!となるものの、染みつくまでには至らない状況。

そこで、一度今までやったことはすべて忘れて、超初歩の初歩から積み上げてみようと決意し、ネットの無料講座を探すことにしました。日本のiTunesUで検索したところ、レベル別に色々ありましたが、入門から段階的にステップアップできそうな早稲田大学の向後千春先生の講義を見ることにしました。

以下に受講した講義と短い感想を記します。

1)入門統計学 01 
大学内のホームページにもリンクがありますし、iTunesUでも公開されています。
https://itunes.apple.com/us/itunes-u/ru-men-tong-ji-xue-xiang-hou/id651361513?mt=10

<感想>
本当に超超基礎レベル。短めの動画を再生するだけという気楽さもあって、統計アレルギーを起こさずにあっという間に受講終了。とっかかりとしてはすごくいいと思います。先生も親しみやすいです。残念なのが、講義後に行う自習課題のサンプルデータをDLできないところ。
講義を聴いて、Excelを使って簡単な関数をやってみると、理解がさらに深まりそうなだけに残念でした。

2)統計学 I 
https://itunes.apple.com/us/itunes-u/tong-ji-xuei-xiang-hou-qian/id651359482?mt=10

<感想>
「差があるかないか」について調べる手法を学びました。(χ二乗検定、t検定、分散分析)
私みたいに苦手意識がない方はここからスタートで十分だと思います。
この講義用にテキストが発売されています。テキストを読んで、講義を見て、自分でExcel計算をやってみると「ぼんやり」していた理解が「かっちり」確かになって、すごくよかったです。

テキストはこちら



おまけ
3)統計学入門 01
http://course-channel.waseda.jp/subject/contents/1100001110/01/11#

<感想>
同じ早稲田の西郷 浩先生の講義。こちらは感覚を磨くというより、きっちりと知識を積み上げていきましょうというタイプ。本で読んだことがあるような内容なんですが、人が話しているのを聞くと理解が深まる気がしますし、動画の授業っていいなと思いました。サンプルデータもDLでき、先生と一緒に操作します。 08.「第3回講義 第1章 代表値」から医薬に近い話しが出てきますので、お急ぎの方はここから視聴でもよいかも。

★自分でやってみる

これまでの勉強と何が大きく違うかというと、やっぱり自分でやってみる、に尽きると思います。
先生が動画で話されていることは、何度もテキストで読んでますし、なんとなくわかってるよ・・・という事項ばかりなんです。でも、「さぁ、実際にExcelに数値を入れて、数式を書いて計算してみましょう」と言われ、実際に「えっと、このセルとこのセルの差を二乗して、それからルートかけるんだから・・・」と頭を使うとテキストを眺めるだけより、動画を見るだけよりもずっと統計感覚が身につきやすい気がします。汗を流してわかることもあるというか。

テキストには使用するExcel関数や数式がきちんと書かれているので、途中で「あれ?どうやるんだっけ?」となっても、戻って確認すれば難なくわかるしくみも効率がよく、学習者の負担が軽くていいなと思いました。

世の中には「数式を使わない」統計学の本もたくさんありますし、数学嫌いの私には大変ありがたいのですが、そもそも数字の話しをしているので、やっぱり言葉だけで説明されても完全に理解するのは難しいですよね。その点で、このExcelでやってみる方式は、数式ほど難しくないけど、数字をいじってみて出てきた数字をその場で検証できるので理解しやすいように思います。

★今後

さて、統計の入り口をしっかり勉強し、アレルギーがなくなったところで、今後について。
同じ向後先生の統計学IIで、回帰分析と因子分析を勉強します。その上で、今度は実際の論文等に書かれた内容を解釈できるように、生物統計についてもう少し特化して勉強していきたいという野望が。このアタリはまた後編としてお伝えできればいいなと思っています。がんばりまーす!

統計学IIのテキストはこちら。今度はアイスクリーム屋さんが舞台に。こちらから読み始めても大丈夫ですよ!



2015年6月22日

「英文読解力強化セミナー~誤読をなくし、誤訳を防ぐ~」セミナーに参加してきました

先週末、翻訳学校のサンフレアさんで開催された「英文読解力強化セミナー~誤読をなくし、誤訳を防ぐ~」(4時間、単発)に参加してきました。講師は翻訳フォーラムでもおなじみの深井 裕美子先生。
 
4時間の講義のうち、前半は調べ物、後半は英文の構造が主なテーマ。より細かく見た後は、すこし引いて英文を読んでみましょう、という内容で、先生の鋭い質問に我々がワタワタと答えて講義が進行していきます。この先生の質問に「ワタワタする」というのが最大の胆だったように思います。出席された方、いかがでしたか?人から言われた注意よりも、自分で気づいたことの方が発展性があるというか、次への気づきが誘発されるというか。4時間の講義のために2つの課題を訳して臨んだのですが、1つめの課題文で先生の質問に答えながら、「やばい、これって課題2のあれはダメだったということじゃん」と気づいたりして、心が散り散りに。先生の質問はもちろん私個人に向けられるものばかりではなくて、教室の誰かに向けたものでもあるんですが、それでも冷や汗は流れるわけで・・・。

具体的に勉強になった内容を挙げるときりがないのですが、一番の収穫を挙げると、自分が陥りやすい罠がはっきりしたことだと思います。英文にぐっと寄って、書かれた人物や背景などを丹念に調べることはもちろん大事です。というか、調べないとわからないことが多すぎて(それはそれで反省すべきですが)、自分の仕事が成立しないという面もあります。私は調べ物をたくさんし、その背景等様々なことがわかってから英文に戻ってくると、すごく近視的に寄りすぎてしまって、出す訳が「まとめ訳」みたいになりがちなんですよね。調べた成果が並んでしまうというか。調べた内容は「調べ物」として頭の中心から少し距離をおいておかないと、中心にくるべき原文から離れてしまって、忠実な訳にならなくなってしまうことが多い。英文を読んで頭に浮かぶイメージに「私の調べ物」バイアスが出てしまうことに注意しようと思いました。

別の言い方をすれば、調べた内容の取捨選択も大事ということかもしれません。調べたものを自分の中で取捨選択して、この情報は生かそう、これは必要ないと判断することも翻訳のテクニックとして必要だなと思いました。「まとめ訳」みたいになってしまうのは、だいたい自分が調べた内容を全部入れようとしちゃうからなのかもしれないなと。そのあたりのコツも講義でわかってきたので、今後に活用できそうです。

後半の英文を構造を意識して読む、というのはちょうど自分でも意識していた点なので、「おぉ、やっぱりそれでいいのか!」と嬉しくなりました。去年お引き受けしたライティングの仕事のからみでパラグラフライティングをおさらいしたおかげだったんですが、改めてあの仕事(大変だったけど)やってよかった・・・と思いました。きっと医薬やバイオ系などの論文を訳される方はおなじみだと思うのですが、センテンス毎にどんな役割があるのかを意識して読む、少し引いて上から俯瞰する気持で英文を読むと違うよ、という内容をお話いただきました。自習の参考書のご紹介もあって、今後に繋がる内容でした。

私の次の課題としては、論文のように構造がわかりやすいもの以外でも、きちんと原文を俯瞰して読むようにすること。そして構造がわかったとして、それをどう日本語に落としていくのか。英文の持っている流れ、役割(主題なのか詳細なのか例示なのかとか)を感じられる日本語にどうやってしていくのか・・・。「まとめ訳」と合わせて克服していきたいです。ひとつのセミナーを受講すると、複数の課題が見つかるのは嬉しいような悲しいような(いや、やっぱり嬉しいんですが)。修行の道は続きます。

最後にあらためまして深井先生に4時間にもわたる素晴らしい講義の御礼を申し上げます。講義終了直後には整理できていない部分も多くて、すぐにきちんと感想を申し上げられなかったのですが、こうして書いてみると、自分の欠点を把握し、気づきをいただいたことで次の課題が見えてくるという深い講義をいただいたんだなと改めて思いました。どうもありがとうございました。

2015年4月2日

翻訳家小尾芙佐氏の講演会に行ってきました

ご無沙汰です…と毎回書き始めるのも今度こそ最後に…

Twitterでアルクの佐藤直樹さんのツイートを拝見し、ベストセラー小説、『アルジャーノンに花束を』の訳者でいらっしゃる小尾芙佐氏の講演会に行ってきました。いつも貴重な情報ありがとうございます!
今回もメモなしですし、ちょっと時間が経ってしまったのですが、とても面白い話しをうかがったので備忘録的に記しておこうと思います。

83歳のお誕生日を迎える小尾氏ですが、背筋がしっかりと伸びて、マイクなしでも大丈夫じゃないかと思えるほど通る声でした。2時間ほどの講演で、前半は生い立ちから翻訳を始めたあたりまでをご家族のエピソードを交えながら、後半はアルジャーノンの秘話から最近手がけている古典の翻訳まで、翻訳にまつわるお話をいただきました。

★生い立ち


司会進行をお嬢様がなさり、当時の社会の様子を振り返りつつ、家族写真などを拝見しながら楽しいお話に耳を傾けました。

1枚目のお写真は小尾氏が5歳ぐらいのもの。探偵小説家になりたかったお父さんの影響で、家中に探偵小説が溢れかえり、身体も弱かった小尾氏は、こどもの頃から探偵小説の古典を読み漁っていたそう。時代は太平洋戦争の真っ只中で、疎開も経験。食べ物がないことよりも、結核の療養を理由に読書を禁じられ、活字に飢えていたことが辛かったというエピソードが印象的でした。

戦後、津田塾大学の英文学に進学するものの、英語が好きだったわけでもなく、入学したら周りはみんな勉強熱心でびっくりし、『高慢と偏見』の授業で課題とされた英文を読むも面白くない…と思ってしまったとか。尊敬する翻訳者さんでもそんなことが!と親近感が湧いてきます(笑)。

大学在学中は、フランス文学や太宰治などの日本文学を読みあさり、イタリアやフランス映画を名画座で見まくり、俳優座などに通い詰めて戯曲三昧…という生活に。色々な経験をしながらも、どこかで漠然と小説を書くといった創作はできないけど、いつか翻訳はやるかもしれないなと思っていたとか。天命というか、自分の進むべき道が見えていたのでしょうか。

卒業を前にして、同級生は続々と商社やスチュワーデスなど就職先が決まっていく中、求人票を見てもピンとくるものがなく、そのままお父様の事業を手伝うことに。しかし、しばらくして雑誌『それいゆ』の編集者の求人広告を新聞で目にし、学生時代から作文の成績がよかったし、編集者なら面白そうだと思って応募したところ、千人もの応募者からみごとに合格。この辺りは向田邦子が映画雑誌の編集者になった経緯と似ている気がします。

雑誌『それいゆ』編集部は体調を崩して1年ほどで退社するのですが、この編集部時代に早川書房の編集者であった福島正実氏と知り合います。早川書房のミステリーマガジン誌を愛読していた小尾氏は、福島氏にミステリーの翻訳をしたいと持ちかけたところ、ちょうど福島氏がSFマガジンの創刊に奔走していたところだったこともあり、SFの短編小説の翻訳を打診されます。これがデビューとなり、キャリアを積み重ねていきます。人生のターニングポイントに人と人とのご縁ってやっぱりあるものですね。

翻訳を始めたすぐの頃に、慶應大学で経済を教えていたご主人と出逢い、結婚。お嬢さんを出産。結婚、出産をしてもずっと仕事はやめずに続けていますが、それはご主人の翻訳と仕事に対する深い理解と、同居していたお姑さんの理解とサポートがあったからのようです。

お姑さんも働く女性であったため、仕事はできるけどお裁縫のできないお嫁さんに、「あなたにはあなたの仕事がある。お裁縫はそのプロに頼んだらいいじゃない?」なんて言うような方だったとか。会場でも思わず驚きの声が上がっていました。

★『アルジャーノンに花束を』


40才の頃、『アルジャーノンに花束を』を1年以上かけて訳します。日本で大ベストセラーになり、ドラマ化もされましたね。先天的な障害で幼児程度の知能しかもたないチャーリーが、外科手術を受けることで知能が驚くほど向上するが、その後また知能が・・・という物語。

主人公のチャーリーが自分の「経過報告」を記すという独白形式で進んでいきます。この物語が多くの人の心に深く届いたのは、チャーリーの筆運びに説得力があったからではないでしょうか。幼児程度の知能しか持っていない時期に書かれた報告、高い知能を得た時の報告・・・そして徐々に失われていく知能・・・。各段階での知能レベルがとても自然に表現されているため、物語の世界にぐっと入り込めるのではないかと思います。特に知能レベルが低い時の独白をどうやったらこんな風に訳せるんだろうと思っていたのですが、今回の講演でその秘密が明らかになりました。

実は、著者であるダニエル・キイス氏も、小尾氏がどのようにこの幼児レベルの知能を訳し、表現しているのか気にされていたようで、キイス氏の来日時には挨拶もそこそこに「どうやって訳しているんだ?」と聞かれたとか。小尾氏がとった方法は、同じ程度の知能障害があったとされる画家の山下清が記した『山下清の放浪日記』を読んで研究し、文法やつづりの間違え方に一定の法則があることをつかみ、それを忠実に訳文に反映させていくというものでした。

この方法をお話すると、なんとキイス氏もこの物語を執筆するときに、同じ知能レベルの人が書いた文章を参考に、共通する法則をみつけ、それをチャーリーの筆に落とし込んだそう!偶然ではありますが、原著者と訳者が同じ方法を採用していたんですね。このお話しを聞いて、これ以上原文に忠実に訳すことってできないんじゃないかなと思い、鳥肌が立ってしまいました。



この春に始まる新しいテレビドラマに合わせて出版された文庫版の巻末には、小尾氏が記したキイス氏の追悼文もついているそうですので、未読の方はぜひお手にとってみてください。

                     

★翻訳について

講演のおしまいに、翻訳についての心構えについてのお話がありました。小尾氏は原文に忠実であるを信条にしていて、まず原文の理解が大切だと。どんなにがんばっても、その文化がわからないと原文を理解できないことはあるので、周囲にいる留学生やネイティブの知人、海外に住んでいる同級生などに色々質問し、疑問を解決していくそうです。

そして次に日本語。これは日本人の作家が書いた作品をたくさん読むことが大切だと強調されていました。読むべき作家として小尾氏が大学時代に読んでいた作家の名前が多く挙がっているのを聞いて、若い頃に好奇心の赴くままに吸収したことが役に立つんだなぁと思いました。日本語は文体を把握することが大事で、この文章は日本人作家でいえば誰の文体がいいのか?と考えて決める過程の重要性を強調していました。具体的に文体を決めるというのは、時代背景や社会構造も知らないとできないし、人物が置かれた状況・環境はどうなのかなど、抑えるべきポイントがあり、日本語に対するセンスを学びとることにつながる、と。


具体例を挙げると、小尾氏が手がけた『高慢と偏見』では、当時の社会をよく研究し、Mr.DarcyとElizabethとの置かれた地位の差などを考慮して、既訳にはない言葉使いを選んだとおっしゃっていました。




他にもSFを訳す楽しさや優秀な編集者と仕事ができる喜びなど、興味深いお話もたくさんいただいた2時間。これまで一度も講演をしたことがないという小尾氏の貴重なお話を楽しめました。帰りにサイン会もあり、ちゃっかり持参した書籍にサインをいただいてきました!