2014年10月5日

厚生労働省が「医療通訳テキスト」と「外国人向け多言語説明資料」を発表。無料でダウンロードできます

今回は、医薬翻訳ではなく医療通訳の話題をお届けします。

在留外国人や外国人観光客が増え、日本の医療を受ける機会も増加していること、そして2020年の東京オリンピックを見据えて、厚労省が外国人患者の受け入れ環境整備を『医療機関における外国人患者受入れ環境整備事業』として推進しています。

その一環として、医療通訳者の育成にも力が注がれているのは新聞や通訳・翻訳雑誌でも特集が組まれるなどしていますので、ご存じの方も多いかと思います。
そしてついに、平成25年度補助金事業として、医療通訳育成カリキュラム・テキストの作成が行われ、先日、厚労省のサイトから無料でダウンロードができるようになりました!

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056944.html

このテキストは、医療に関する一定のレベル以上の知識および通訳技術を修得し、医療通訳者として機能する専門職を育成するために行うべき研修や指導要領等についてまとめてあり、全部で570ページもある大作。テキストの編纂を担当した多文化共生センターきょうとでは、12月にこのテキストを基にした講習会を東京で開催する予定があるそうです(詳細は未発表)。

育成カリキュラムの中身を見てみましょう。
まず研修の受講資格は原則20歳以上。対象言語において高度な会話や議論ができること。母語や対象言語の国や地域における習慣、社会常識を理解していることなどが挙げられています。

医療通訳に必要な知識、能力とスキル、倫理、対応力を身につけるための研修(「医療通訳研修Ⅰ」、「医療通訳研修Ⅱ」)を行うのですが、具体的には、1クラス90分のクラスを50クラス以上の研修時間が必要(うち通訳実技は最低8クラス以上)。クラスも少人数(10名程度)と規定されています。この研修後にさらに実習(医療機関等での通訳実務)を25クラス以上(この内病院内の実習は20クラスほど)が義務づけられています。

研修を修了するためには、9割以上の出席と課題提出などの他に能力試験に合格する必要があります。この能力試験は「医療通訳に必要な知識、能力とスキル、倫理についての理
解度、習得度を測るために口頭、あるいは筆記、模擬通訳を通じて評価する」と書いてあるので、実技試験もきっとあるんですね。

そして通訳経験者に対する能力審査(バリデーション)というのもあり、2年以内に40時間程度の通訳実務経験があり、この育成カリキュラムの研修内容と同等レベルの研修を受けている人を対象にしています。十分知識、能力等が備わっているとみなされると、研修が一部免除されますが、経験や能力に関係なく受講しなくてはならない「医療通訳者の役割」といった単元もあるそうです。

研修のモデルプランでは、研修を75時間、実習を37.5時間の合わせて112.5時間を試算していますね。この時間をかけて学ぶべき事項がテキストにまとめてあるのか・・と思うと、570ページの大作も納得できますねー。

さて、続いてテキストの中身を覗いてみましょう。
まず巻頭に「人体各器官名称」があり、解剖イラストに日本語(かなふり)で名称が記載されています。これは翻訳でも使えそうですね。
人体各器官名称の一部。対訳ではないですが必要最低限を押さえられて読みやすいですね

そして本題に入り、医療通訳者の役割、倫理から身体の仕組み、検査、薬、感染症の基礎知識などの医学知識、さらに日本の医療制度や文化的背景、そして通訳技術についても書かれています。最後には実習に役立つロールプレイング用の模擬通訳シナリオもあって、机上の理論から実践まで幅広くカバー。

医学的な知識といっても、MRIとは何かなど本当に簡単にまとめてあるだけなので、医薬翻訳者の実務ではあまり役に立たないかもしれませんが、初学者の学習用や患者さん向けの翻訳などで参考になるかもしれませんね。

ざーっと読んでみたところ、とても簡単な日本語でまとまっているので、医療通訳を目指すなら、このテキストを自分で訳してみる、というのも自習の仕方としていいんじゃないかなって思いました。


この医療通訳テキストと一緒に、「外国人向け多言語説明資料」もダウンロードできます。これは外国人患者に対応するときに必要となる、問診票、説明文書、コミュニケーションツールなどの文書が日本語と複数言語で対訳になっているもの。

これは翻訳する時にも活用できそうですよね。1枚で日英併記になっている文書と、日本語版、外国語版とわかれているものと両方あります。

日英併記の問診票と感染予防の啓蒙リーフレットの英語版



医療通訳の育成研修はこれから各地で始まるのでしょうか。
地方の医療通訳不足の声も聞こえてきますし、できたらWebでの研修など多くの人がアクセスできる環境の整備も期待したいですね!