2014年3月30日

17/30冊『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』クリスティン・バーネット著 永峯 涼訳 読了


もはやカウンターをつけている意味を感じないぐらい久しぶりの更新となりますが、読書ノート、今回は自閉症・アスペルガー症候群を患う天才児のお母さんの自叙伝です。
今回は読書感想文に少し病気の背景を記した構成にしたいと思います。

きっかけは、『ゼロからトースターを作ってみた』(飛鳥新社、トーマス・トウェイツ著)

の訳者でいらっしゃる村井理子さんがFaceookでこちらの動画を紹介されていたのを見たことから。




いつも興味深い話題を提供される村井さんの熱いコメントに誘われて何気なく見始めてしまったら・・・もうこのジェイコブ君がキラッキラしていてとにかく魅力的。彼を育てたお母さんの著作に興味を持ちました。

この本の具体的な内容に触れる前に、自閉症という病気についてさらっとみてみましょう。
恒例のNEJMをチェックしてみると、ワクチンとの関係を検証したものなどが多く、なかなか病気そのものを追求したものが見当たりません。少し古いですが、自閉症についてまとめた記事がありました。

REVIEW ARTICLE / CURRENT CONCEPTS
Autism
Isabelle Rapin, M.D.
N Engl J Med 1997; 337:97-104July 10, 1997

自閉症は"Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-IV)"(日本語版『精神疾患の診断・統計マニュアル』)において広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)の一つと考えられており、診断基準も定められています。

その症状はコミュニケーション、遊び、集中力と活動、認知、知覚運動性行動などに特徴があります。自閉症の病因については生物学的病因が複数定義されているものの、自閉症だけに認められるものはありません。出生前要因(胎内風疹など)、染色体異常などが考えられますが、出生前要因の役割はほとんどなく、生後の要因として未治療のフェニルケトン尿症、点頭てんかん、単純ヘルペス脳炎、またごくまれに局所的な脳病変などが多く例証されています。面白いのが、これらの病因が当てはまると考えられる患者の割合が、診断基準や評価方法によって10%~30%ものばらつきがあることです。要するにだれがどう判断するかによって病因と呼ばれるものが違う、ということですね。
遺伝的要素も重要な要因となるようで、自閉症児のいる家庭では3%~8%の確率で再発するというエビデンスの存在も。双子を対象とした研究では、一卵性の双子では90%に両児ともに自閉症を認めるが、二卵性(同性)では5~10%程度しか認めません。このことから遺伝的要因が考えられます。また両児に認めても症状の発現にばらつきがあることから、複数の遺伝子発現と遺伝的要因が相互に作用しているのではないかと考えられます。
さらに多くの研究で自閉症に幅広い神経異常が認められることから自閉症との関連が推測されていますが、解剖学的または病理学的な理論は成立していません。

さて、本のご紹介に戻りましょう。この本は、2歳の息子がこのように病因もはっきりしない疾患、自閉症であると診断されたお母さんが書いています。ご自身の結婚から子育ての現在まで自叙伝的な作りになっています。

両親は、息子ジェイコブ君が自閉症と診断されてから1年ほどは、日々の訓練セラピーを懸命にこなし、成長を見守ります。しかし「5歳までに周囲がどれだけ介入したかに症状の改善がかかっている」という説があるそうで、お母さんは焦りはじめます。
そんな中、セラピーの先生から「この子は字を読めるようにはならないから、アルファベットのカードを持たせるのは意味がない」と言われ、衝撃を受けます。確かに、先のNEJMの記事にも、予後はおもわしくなく、思春期になるとホルモンの影響を受けてよりいっそう社会的な環境に合わせるのが難しくなってくる、と書いてありました。

ですが、健常児であっても、「大学に行けるわけないから、勉強はこの程度でいいでしょう」と言われたらどうでしょう。私ならその場で星一徹に豹変して軽く暴れると思います。「我が子の可能性を過小評価しないで欲しい」と。
ジェイコブのお母さんもこの一言でセラピーに任せるのではなく、自分でなんとかしようと決心します。1年後に一般の健常児と一緒の教室に入れるようにしてみせると。

これをきっかけに、お母さんは「苦手を克服する」これまでのセラピーとは真逆の「得意なものを伸ばす」ことに注力していきます。この少し前から、お母さんはセラピーとは別に好きなだけ好きなことに没頭する「子どもらしい」時間を意識的に作るようにしていました。そのおかげか、徐々にジェイコブ君の言葉も戻ってきていたこともあり、お母さんは反対するお父さんや関係者を粘り強く説得しながら、自分の経営する保育園を舞台に、ジェイコブ君だけでなく健常児に対しても、この得意を伸ばすという方針を貫いていきます。またこのお母さんがパワフルなのは、健常児用の保育園経営とは別に、完全にチャリティで自閉症児のための保育を始めるのです。

お母さんは「好きなことを思う存分できる時間があれば、好きでないことにもいい集中力を持って向き合える」と考え、子どもをよく観察して得意・好きを見つけて、最初はともに楽しみ、後に一人で集中できる環境を用意してあげます。

この方法は育児全般にも当てはまるように感じました。子どもに一番必要なのは心の充足感。今日も一日楽しかった。ご飯をお腹いっぱい食べた。お風呂に入って気持ちよかった。そういうシンプルな心の充足感があると、嫌なことも取り組めるようになる・・・というのは私が育児をしていても素直に感じるところです。遊ぶ時間が短い、睡眠時間が足りない、食事が不規則だったりすると、本来好きだった活動(読書だったりお人形遊びだったり)にも集中できず、そんな状況がさらにイライラを呼んでしまい、行動が荒れ、結局お母さん(私ですね)に怒られて泣く・・・というスパイラルに陥りやすいという実感もあります。例え時間が短く、ささいなことであっても、気持ちが満たされる瞬間があると、子どもは嫌なことを嫌と感じず、機嫌よくやってくれるような気がします。

さて、ジェイコブ君のお母さんは、この「好きなことへの集中」を軸に、様々な工夫をしてジェイコブ君を支えます。途中には次男の病気やお父さんの失業(大不況に見舞われます)、お母さんが病に倒れてしまったりと、大変な時期もありました。それでも家族の結束と信仰、周囲の協力でジェイコブ君は普通学級に入るどころか、天文学への興味から大学の公開講義を受けたことがきっかけとなり8歳で大学まで飛び級してしまいます。そして現在も宇宙についての研究を行っているそうです。

自閉症という病気のメカニズムがはっきりわからないため、ジェイコブ君のような天才的な頭脳と自閉症の関係性はわかりません。というよりも、自閉症かどうか、天才児かどうか、という問題を超えて、ジェイコブ君が家族の愛情に恵まれ、すばらしく幸せな人生を歩んでいることに感動しました。
好きなことを好きなだけ没頭しつつ、家族や友人との時間も持てる。そういう環境を用意しようと並々ならぬ努力と工夫を重ねたお母さんの姿に深い尊敬の念を覚えるとともに、自分も子どもの好きや興味を大事にしてあげたいなと思いました。


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