2013年10月5日

フリーになって3年が勝負は本当?

「フリーになって3年が勝負」とか、「スタートダッシュが大事」といったお話しを聞くことがあったのですが、なんとなくわかるような、わからないような感じでいました。

少し前になりますが高橋聡さんが講師をなさった単発の講座に参加したこと、ベテランさんが集う勉強会に出たこと、そして同じ時期に先輩の翻訳者さんに訳文をチェックしていただくという好機に恵まれて自分なりの答えが見つかったので、このブログでは珍しく、翻訳そのものについてざざっと書いてみたいなと思います(この時期はとても濃い翻訳体験ができて感激でした)。

講座、勉強会、訳文チェック、全て異なる先輩方のお世話になったのですが、技術的な面以上に強く印象に残ったのは、翻訳に取り組む姿勢でした。やっぱり一流の人は違うんだなと。

例えば、高橋さんの講座では、provideを例にして訳しにくい単語の訳し方のヒントをいただきました。確かにいつも訳語を迷う単語ですよね。
ここで勉強になったのは、「ここではこういう意味かなー」と毎回漠然と訳語を選んでいるのではなくて、徹底的に辞書にあたり、用例を調べ、その単語の中の規則性(普遍性)をとらえることから始めること。その上で訳語を分類し、系統で整理し、系統外も小さくまとめるケアの細かさ。

実際に講座で教えていただいた系統は、今までみたことがないような独自な分け方ではなく、過去の経験から私も自然と訳し分けていたものでした。ポイントは、それを「過去の経験でなんとなく」使い分けるのではなく、意識的に自分の頭で普遍性を考え、辞書にあたって手を動かしながら系統に分けようとすることです。場当たり的に訳を出していても、もしかしたら適訳にあたるかもしれません。でも同時にとんでもなく的外れな訳を出してしまうリスクも抱えるため、これでは安定した品質を提供することができません。きっと高橋さんが日々の業務の中で、「自分なりの戦術」として、このように辞書で調べ、系統分けをしてから訳語を選択する、というスタイルを確立されたのだと思います。

同じようなことを勉強会でも感じました。
原文を自宅で訳し、事前にそれぞれの訳文を集めてまとめたものを全員に配布し、当日に発表・検討するというスタイルで行われたため、この部分をAさんはこう訳している、でもBさんはこうだ・・・と違いが一目瞭然でそれを見比べるだけでも楽しいものでした。
私などは、「うーん、前後からしてここはこうでいいんじゃないかなぁ」ぐらいの無難な訳しか書けないのに、Aさんは「ここがこうだから、こうでしょう!」となるし、Bさんは「ここはXXで処理するときれいにまとまるんじゃないかな」と、それぞれ独自の見解をお持ちで、それをひとつずつ丁寧に説明されていくので、聞いているだけでも(本当はそれだけじゃダメなんですが)ものすごく勉強になりました。

今回は議論に積極的に参加できるほど成熟した訳文を持ち込めなかったことが悔やまれましたが、参加者が戦わせる論戦を聞いていると、みなさんが「翻訳に対する独自のアプローチ法が確立している」ことがはっきりとわかり、一流プロの凄みを肌で感じることができたのはとても刺激的で貴重な経験だったと思います。
翻訳の品質というのは、とかく訳文(アウトプット)でしかみられないものですが、
品質を担っているのはやっぱり訳している人、その人の翻訳の取り組みが全てなんだと肌で感じました。高品質な訳文は、品質の高い翻訳者から生まれるんだなと。

最後に訳文を見ていただいた時に感じたことを。
訳出した文章を見て、「これでお金を取れるかどうか」という視点を持つことの重要性を感じました。これはお金にうるさくなれ、ということではなく、表面をなぞっただけの訳文では誰もお金を払わないよ、ということです。

確かに誤訳ではない。日本語に誤りもない。でもそれ以上の付加価値は何か提供できるのかと常に考えること。読み手のこと、文書の用途、考えたらいくらでもありますよね。間違っていない、誤訳していないことが気になってしまってすごく妥当な「間違ってない」訳文を書きがち。でも本来求められているのは、それよりも一歩進んだ、内容を理解してなければ書けない文章だと。当たり前すぎることですが、原稿をいただいて訳にとりかかるときの気合いというか心構えが大きく変わった気がします。

さて、この3つの体験が頭の中で結びついた結論は、3年神話はある!です。

毎日の仕事の中で:
訳出する過程で自分の欠点を見つけ、それを克服できるか。
商品価値のある訳文を心がけられるか。
この2点を意識していかないと、継続的な成長は望めないのかなと思いました。

欠点や苦手な部分を毎回「しのぐ」ことでなんとか納品することを繰り返してはだめなのです。
訳しにくいなぁと思っているだけではなく、どうして訳せないのか、日本語の問題か、英語の読解なのか、背景知識が足らないのか。
日本語の問題であれば、何が弱いのか。係り受けなのか、流れの部分なのか。
考えればたくさんの選択肢が浮かんできます。

その中で、「これだ!」と原因を見つけ、仕事の中で意識的にその改善につとめる必要があると思いました。
苦手を苦手のままにしない。苦手をどうやって克服するのか。客観的に道を探ること。
ひとつのシステムとして解決へのアプローチを持てるかどうかにかかっているように思います。

このシステムを構築する試行錯誤に3年というのは割といい線なんじゃないかと思うのです。どうでしょうか、先輩?
もちろんシステムのバージョンアップも必要ですし、どんどん変化していくべきものと思うのですが、まずはシステムが必要だという意識がないと、「何を勉強していいのかわからない」という恐ろしい状況に陥るのではないかと思います。

そして商品価値を意識するのは改めてご説明する必要はないと思います。あらゆる種類の文書を訳しながら、背景知識を蓄積していき、その文書、その読み手に応じた訳を心がける習慣が身につくのにも一定の期間が必要ですよね。勉強会ではお客様には出せない思い切った訳を試してみて、客観的に批評してもらう、なんてことを繰り返すのも有功じゃないかと思います。

ちょっと脱線ですが、いわゆる恋愛における「3年目のジンクス」とも同じなのかもしれませんね。翻訳愛にあふれる3年間はいわゆる新婚中。そして愛はいつか冷める。だから冷めないような工夫が必要、ということなのかなと(笑)。みなさんはどう思われますか?


お知らせ

みなさんこんにちは。
新装開店のカンサンの医薬翻訳ノートにようこそ。
ライブドアブログからお引っ越ししてきました。
心機一転、新しいドメインでスタートします。
みなさまどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、この数ヶ月もの間、ブログを更新せずに何をしていたのか・・・といえば、
こちらの引越作業に手間取った・・というのがひとつ。
もうひとつは、所属する日本翻訳者協会(JAT)が主催する第25回 英日・日英翻訳国際会議 東京大会(IJET-25)の実行委員お手伝いをはじめたことがあります。

※IJET-25とは?

第25回 英日・日英翻訳国際会議 東京大会

日時:2014年6月21、22日
場所:東京ビッグサイト

2日間のマルチトラック形式のプログラムをご用意。分野もレベルも多様です。
世界中から翻訳・通訳者が集まり、情報交換やネットワーキングのチャンス!

JAT会員歴1年、過去のIJETの参加歴0の私ですが、何の因果かPRを担当しておりまして、日々チラシを作ったりしています。

来年6月、ビッグサイトでお会いしましょう!

もうひとつ宣伝!
医薬翻訳者のみなさん、11月30日は大阪へいらっしゃいませんか?


治験の国際化とCROの役割
~環境変化に耐えうるプロの翻訳者に求められるもの~

日本の臨床試験および国際共同治験においてCROが果たしている役割、課題、今後の環境変化に耐えうるプロの翻訳者に求められるものは何かについてお話を伺います。

講師:棚瀬 敦氏(シミック株式会社・執行役員 コンサルティング事業本部本部長)
日時:2013年11月30日(土)14:00~17:00 (開場 13:30)
会場:TKP大阪梅田ビジネスセンター

JATPHARMA(医薬翻訳者のための分科会)と共同主催。
多くの仲間とお話できる時間もご用意しています。
私も念願の大阪入りなので今からとても楽しみです!
11月に大阪でお会いしましょう!
(※せっかく顔写真もさらしているので、見つけたら声かけてくださいね~)

次は宣伝じゃなくて、ちゃんと記事を書きますね!