2013年1月21日

疾病根絶計画(メジナ虫症とポリオ)

日本にも「ツツガムシ」と呼ばれるダニの一種による感染症がありますが、
今回は世界の感染症根絶に関する記事をピックアップしました。

1) NEJMから
REVIEW ARTICLE
GLOBAL HEALTH
Disease Eradication

まず、言葉の定義を見てみましょう。
NEJMの記事に疾病撲滅国際特別委員会(International Task Force for Disease Eradication)による定義が紹介されていました。

Eradication : 根絶
根絶努力の結果として世界的に疾病がゼロになること。
コントロール手段を講じる必要がなくなった状態

Elimination:排除 
根絶努力の結果として特定の地域に限り疾病がゼロになること。
伝播の再興を防止するコントロール手段を講じる必要がある状態

日本では、根絶と排除が一緒になって語られることが多い様ですが、
この2つは明確に使い分ける必要があり、根絶はなかなかハードルが高いことがわかります。

たとえば、天然痘は、1977年を最後に自然発生は認められなくなりました。
これは根絶にあたります。

世界では疾病根絶に向けて、どのような動きがあるのでしょうか。
NEJMによると、世界保健総会は、 1986年にはメジナ虫症(糸状虫症)を、
また1988年にはポリオ根絶を世界目標とすることを採択し、宣言しました。
ところが、それから数十年経過していますが、未だに目標を達成できていません。

根絶キャンペーンの対象となっているメジナ虫症とポリオの他に、
フィラリア症(lymphatic filariasis)もWHOにより世界排除計画が立ち上がっています。
3つの疾病に対し、行われている国際的な取り組みはそれぞれレベルが異なりますが、
いずれにしても以下が鍵となるようです。

・疾病が発生したら、どんなに難所であっても介入する必要性
・対象疾病と介入の程度を監視する重要性
・進行中の監視とオペレーションズリサーチに柔軟かつ緊急に対応する必要性
・たとえ症例数が減少して1例あたりの費用が跳ね上がっても、対象疾病の伝播阻止という目標に集中する必要性

一番上の「難所」は、たとえば政治的に介入の厳しい地域であっても、
介入しなくてはなりませんし、監視するためには危険を伴うこともあるかもしれませんね。
後ほどご紹介するポリオ根絶への障壁もこのあたりにあるようです。

2)ワクチン以外の試み、メジナ虫症の例
感染症といえば、ワクチンが介入手段として有効ですが、
NEJMに、ワクチンだけでない根絶への試みとしてメジナ虫症の例が紹介されていていました。

メジナ虫症は1980年にCDCによる世界的な根絶キャンペーンを開始し、
1986年以来、WHO、CDCおよびUNICEFと密接な連携をとりながらカーターセンターによりキャンペーンが引き継がれています。

病態について見てみましょう。
(NEJMにはイラスト入りでメジナ虫の生態が紹介されています。)
寄生虫メジナ虫は、成虫(メスですね)が水に触れると、数千もの幼虫を放出します。
ケンミジンコがこの幼虫を摂取し、ヒトがケンミジンコ入りの水を池や開放井戸から飲みこむことで、メジナ虫の幼虫が体内に入ります。
そしてヒトが水を飲んでから約1年で、1m長(!)の成虫に育ち、
感染した患者の皮膚からゆっくりと出てくるのです・・・。

い、1mの虫が皮膚から出てくるって、考えただけですごい・・・。
他の資料も読んでみますと、相当痛みも伴うようです。当たり前ですよね。1mの・・・

感染による健康面、農作業、学業(学校に通う)への悪影響は容易に想像できますが、
痛みや皮膚から出てきた虫による二次感染を避けるために、
農作業期に数週間にわたって仕事ができないことなども考えられます。

介入方法としては、飲み水のろ過方法や汚染された水を飲まないといった指導が中心ですが、
弱い幼虫駆除剤を水源にまいたり、封じ込め策として自主的に患者を隔離したり、
可能であれば暫定的に安全な水源の用意なども行います。

これらが功を奏して、
1986年にはアフリカ、アジア20カ国で、推定350万例あったこのメジナ虫病は、
2011年ではたった1058例になりました。

日本に住んでいると、池の水は飲んではいけないとか、
井戸には蓋をするもんだとか、なんとなく常識だと思っていましたが、
そういった衛生面の指導が根絶へ大きく寄与しているようです。

3)ポリオの根絶
もう少し私たちの生活に身近な例も見てみましょう。
ポリオです。
日本でも生ワクチンだ、不活化ワクチンだという議論が活発に行われていることをご存じの方も多いと思います。

ポリオのワクチンは、いわゆる生ワクチンを経口投与するか、不活化ウイルスを注射するかですが、
このワクチンが導入される前の1950年代は、毎年世界で推定60万もの人が死亡または麻痺を起こしていたそうです。

WHO、ユニセフ、CDCや民間の財団の支持により、大規模な世界的予防接種を展開し、
ポリオウイルスの監視に努めたところ、
定期的な予防接種の強化につながり、また医療施設や研究室では精密な手法用いて、
汚物標本や感染を疑われる患者標本からのウイルス検出を判定し、ウイルスの監視を行うようになりました

1999年までに、2型野生株ウイルスは世界的に根絶し、
2006年までに常在野生株ウイルスの伝播は4カ国(インド、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリア)を除き終焉したと考えられています。
インドは衛生状況がよくなく、人口密度が高いことから想定よりも頻回にワクチン接種を行う必要があることから根絶に至らず、
またアフガニスタン、パキスタンは2002年以降の政治的対立が原因となり介入できなくなりました。
ナイジェリアでは、ワクチン接種の副作用についての噂が原因となっています。

その他の問題として、ワクチンを投与された人間が長期にわたりウイルスを排出できること、
稀ではありますが、生ワクチンのウイルスが発病力を持ちはじめ、他者に感染する可能性があることがあります。

こういった状況を考えると、政治不安や定期的に予防接種を行うシステムがないといった問題が
根絶の大きな課題になっているのがわかりますね。
そして、ポリオについては、
弱毒化ウイルスの拡散が集団免疫の強化には有益ではありますが、
生ワクチンによる感染の問題も悩ましいところですね。

4)ワクチンについて
さて、感染症の根絶と切っても切れないワクチンについて、最後に少しだけ。
日本は世界の中でも予防接種に関しては、色々な面で遅れをとっていると言われています。
今回は日本医師会と予防接種推進専門協議会(日本感染症学会等が加盟)が呼びかけをしている
署名運動についてご紹介したいと思います。

日本医師会よりも日本感染症学会のリンクが内容がわかりやすかったので
こちらに貼り付けます。

予防接種法改正による7ワクチンの定期接種化を
実現するための署名活動の実施について
(提出期限 平成25年2月22日(金曜日)必着)

(概要)
医学的・科学的観点から、7ワクチン(子宮頸がん予防、ヒブ、小児用肺炎球菌、水痘、おたふくかぜ、成人用肺炎球菌、B型肝炎)すべての定期接種化に向け、速やかな予防接種法の改正の実現のための署名活動です。

詳細はどうぞ上記リンクをお読みください。
ワクチンで防ぐことができる病気(VPD)の根絶には
ひとりひとりが予防接種をきちんと受けることが大切ですね。

ちょっと視点がずれてしまいますが、
任意接種費用はけっこうバカにならないのです。
水痘は8000円、おたふくかぜは6000円、
上記7ワクチンからは外れますが、インフルエンザは1回3000円前後でしょうか(子どもは2回接種)。
(※任意接種の場合、医療機関や時期によって価格が変わります。
上記は我が子が過去3年ぐらいに接種した際の費用です。まだはっきり覚えてるほど痛かったですよ・・・)

以上です。
疾病の根絶はイタチごっこみたいに思っていましたが、
着実に成果を上げている計画もあり、
VPDの根絶に社会の一員として責任を持たないといけないなーと思いました。

0 件のコメント:

コメントを投稿